マリオカートワールドの80ドル価格は、歴史的に見ればそれほど高くない
先週、任天堂が発表した「マリオカートワールド」のアメリカでの希望小売価格80ドルというニュースは、ゲーム業界に大きな波紋を広げた。この価格は、任天堂にとっても、業界全体にとっても過去最高水準となる。これまで、70ドルを超える価格帯は、特典付きのコレクターズエディションやダウンロード特典が付属するデジタルデラックス版に限られていた。
しかし、過去のゲーム価格をインフレ調整して比較してみると、2025年にベースゲームが80ドルで販売されることは、10〜15年前の大型タイトルの価格水準とほぼ一致していることが分かる。特に、ここ5年間で通常よりも速いペースで進行したインフレの影響を考えると、2020年に標準価格として新たに設定された70ドルでさえ、現在では当時ほどの購買力を持たなくなっている。
マリオカートワールドの80ドルという価格を歴史的な動向と比較するため、まずは過去のゲーム価格を調査する必要があった。2020年に行った類似の分析を基に、アタリ時代から続く実際のゲーム価格を確認するため、スキャンされたカタログや小売広告などを調査。近年の価格については、報道資料やアーカイブされたデジタルストアの情報を使用した。
低価格の投げ売りソフトや小売店の割引による影響を避けるため、調査では各年ごとに確認できた最高価格の標準版タイトルの価格に注目。ただし、バーチャレーシングのような100ドル以上の特殊ケースによって平均が歪まないよう、8つのジャンルごとに最高価格を調査し、代表的なビッグタイトルの「バスケット(かご)」を作成した。たとえば2020年では、「スポーツ」カテゴリにNBA 2K21の70ドル、「アクション」カテゴリにスター・ウォーズ ジェダイ:フォールン・オーダーの60ドルというように、バランスを取っている。
こうして1982年から21の年にわたるデータを収集し、アメリカ労働統計局の消費者物価指数(CPI)を使って、全ての価格を2025年2月のドルに換算した。
「昔の方が安かった」は本当か?
1980年代、小売店で30〜40ドルで販売されていたカートリッジゲームは、一見お得に見えるかもしれない。しかしインフレ調整後のデータを確認すると、現在80ドルで売られているゲームでさえ、当時のプレイヤーから見れば「お買い得」に感じられる可能性が高い。
カートリッジ製造にかかる高コストと、市場の競争の少なさにより、20世紀の新作カートリッジゲームは、現在の貨幣価値で100ドル以上が当たり前だった。中古や旧作であればもっと安く手に入ったが、新作の人気タイトルは、現在の価値で140ドル以上になることも珍しくなかった。
CDベースのコンソールが1990年代後半に登場してから、価格は徐々に安定。2000年代初頭には50ドル前後に落ち着き、2000年代末には60ドルが新たな上限となった。しかしインフレ調整してみると、当時のゲームの価格は現在の価値で90ドル近くに達しており、マリオカートワールドの80ドルを上回っている。
2010年代と価格の実質価値の変化
2010年代には、インフレがゲーム価格の実質価値に影響を与え始めた。60ドルという価格は10年間にわたり維持されたが、その間にも物価は上昇し、同じ60ドルでも購買力は年々低下。2013年、2017年、2020年に収集した「ゲームバスケット」の平均価格は、すべて2025年の価値で換算すると約80ドルに相当している。
80ドルはもはや新しい標準か?
80ドルへの価格上昇は急に見えるかもしれないが、コロナ禍以降のインフレの加速を考えると、ある意味で避けられない現象だった。過去数十年は年2〜3%のインフレ率が続いていたが、2021年には4.7%、2022年には8%と急上昇。その後も、かつて「高い」とされていた年3%以下に戻ることはなかった。
つまり、ゲーム価格の上昇は、単なる企業の値上げではなく、物価全体の上昇による必然でもある。マリオカートワールドの80ドルという新基準は、過去を振り返れば、それほど突飛な価格ではないのだ。