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見えない魔法の地図作り:『Forza Horizon』の舞台裏に迫る

見えない魔法の地図作り:『Forza Horizon』の舞台裏に迫る

新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから2年近くが経ち、人々の生活は大きく変わった。外出するよりもゴミ出しの頻度が多くなり、バナナブレッド作りやYouTubeでのフィットネス動画にもすっかり飽きた頃、Zoomでの金曜夜のクイズ大会すら家族間の点数争いで険悪ムードに。そんな閉塞感の中、多くの人がGoogleマップで仮想の旅を楽しむようになった。

そこへ登場したのが、『Forza Horizon 5』の陽光あふれるメキシコだ。まるで旅先のような美しい風景と、多様な地形を1本のドライブで体験できるこのゲームは、まさに現代人に必要とされていた「自動車の休日」を提供してくれた。

PS5向けにこれまでの全コンテンツを収録して登場する今、リードゲームデザイナーのデビッド・オートン氏とアートディレクターのドン・アルセタ氏は、延べ4,500万人以上のプレイヤーが訪れたこの「世界」をどのように創り上げたのかを振り返る。

「まるで究極のマジックのようなものです」と語るアルセタ氏。「ロケーションを選ぶ作業は非常に大掛かりで、オリンピックの開催地を選ぶような感覚ですね。」

開発チームが地図上のどこにピンを打ち、椰子の木か氷柱のどちらをモデリングするかを決定する前に、検討すべき要素はいくつもあるという。たとえば、その国には象徴的な道路があるか? シリーズにとって新しい生態系やバイオームが存在するか? 自動車文化はどのようなものか? 季節や気候にどんな特徴があるか――といった点だ。

これまでのシリーズ5作において、これらの条件を満たした場所としては、2012年の第1作では南フランス、2014年の第2作ではコロラド州が選ばれた。2016年の『Horizon 3』ではスケールアップが図られ、オーストラリアが舞台となった。この作品では、車両や風景のリアルさで他の競合タイトルを圧倒するゲームエンジンを用いながら、驚異的なワールドマップを構築している。

たとえば、マップの外周を1周するのにかかる時間は約10分。その間にプレイヤーはビーチからサーフタウン、熱帯雨林、乾いた赤土のアウトバック、再びジャングル、そして高層ビルとテラス席のある都市部へとシームレスに移動する。現実には不可能な構成でも、プレイヤーの没入感を妨げず、壮大な旅を楽しめるよう設計されている。

2019年の『Horizon 4』では季節の変化が導入され、舞台はイギリスへ。1週間は晴天、翌週には道路が凍結――そんな環境が自然に感じられるロケーションだった。田舎道や高速道路、風情ある村や大都市がひとつのマップに詰め込まれ、その完成度の高さが第5作への期待を大きく高めることになった。

そしてついに選ばれたのがメキシコだった。

「最終的には候補地を5つに絞り込みました」とアルセタ氏。「最終的にメキシコを選んだのは、その多様性が決め手でした。それに、これまでのシリーズで深掘りしきれなかった文化的な要素にも焦点を当てたいと思ったんです。」

その象徴となったのがフォルクスワーゲン・ビートル(通称:Vocho)だ。1960年代からメキシコでは工場内にも路上にもあふれる存在であり、あらゆる用途・環境に合わせてカスタムされてきた。この車を軸に、「Vochoストーリー」と呼ばれる特別なミッションが展開される。まさにメキシコだからこそ成立する、ユニークなドライビング体験だ。

『Forza Horizon』シリーズは単なるレースゲームの枠を超え、「走る旅」としての魅力を世界中のプレイヤーに届けてきた。その秘密は、徹底したロケーション選定と文化的背景の深掘りにある。次はどこへ向かうのか――その答えを楽しみに待ちたい。